大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)5259号 判決 1977年7月15日

原告

伊藤忠商事株式会社

代表者

野村福之助

訴訟代理人

河島徳太郎

外一名

原告

三菱商事株式会社

代表者

木戸利治

訴訟代理人

田中章二

被告

株式会社トーメン

代表者

安本和夫

訴訟代理人

松浦武

外一名

被告更生会社常陸紡績株式会社更生管財人

高沢嘉昭

訴訟代理人

吉田孝夫

主文

一  原告らの訴を却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告会社ら

(一)  被告株式会社トーメンが更生会社常陸紡績株式会社に対し、更生担保権及び更生債権を有しないことを確定する。

(二)  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決。

二、被告ら

(一)  被告高沢嘉昭の本案前の申立て

主文同旨の判決。

(二)  被告らの本案の申立て

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二  当事者の事実上の主張

一、当事者間に争いのない前提事実

(一)  訴外更生会社常陸紡績株式会社(以下常陸紡績という)は、昭和五〇年四月二五日、大阪地方裁判所から会社更生手続開始決定を受け、被告高沢嘉昭は、同日その法律関係を分掌する管財人に選任されて就任した。

訴外更生会社阪本紡績株式会社(以下阪本紡績という)は常陸紡績の株主及び更生債権者であつたが、同日、同裁判所から会社更生手続開始決定を受け、訴外榊原正毅はその管財人に選任されて就任した。

(二)  原告らは阪本紡績の更生債権者である。

(三)  被告株式会社トーメン(以下被告トーメンという)は常陸紡績に対し、金八六億二、〇〇〇万円の更生担保権の届出をした。

被告高沢嘉昭は、昭和五一年九月二〇日開かれた常陸紡績の更生債権及び更生担保権調査期日で、右届出更生担保権のうち金三二億三、二四五万八、六五九円を更生担保権として、その余の金五三億八、七五四万一、三四一円を更生債権として、それぞれ認めた。

(四)  榊原正毅は、前記調査期日に出席したが、被告トーメンの右届出更生担保権に対し、常陸紡績の債権者として異議を述べなかつた。

(五)  そこで、原告会社らは、前記調査期日に、阪本紡績の更正債権者として、自分らの阪本紡績に対する更生債権を保全するため、阪本紡績及び榊原正毅に代位して被告トーメンの届出更生担保権及び更生債権全額について、口頭でそれぞれ異議を述べた。

原告会社らは異議権の代位行使が認められないことを慮り、前記調査期日に、被告トーメンの届出更正担保権に対し固有の異議権に基づき、異議を述べた。

(六)  榊原正毅は、会社更生法一五一条に基づく確定訴訟を提起しようとしなかつた。

二、原告らの本件請求の原因事実

(一)  被告トーメンは常陸紡績に対し、前記届出更生担保権及び更生債権を有していない。

仮に被告トーメンの更生担保権及び更生債権が有効に成立しているとしても、右更生担保権及び更生債権は否認され、もしくは詐害行為として取り消されるべき債務負担及び担保権設定行為に基づくものである。

(二)  したがつて、阪本紡績及びその管財人榊原正毅は、常陸紡績の株主及び更生債権者として、被告トーメンの届出更生担保権に対し、更生担保権としてはもちろん、更生債権としても全額について異議権を行使すべきであつた。

(三)  そこで、原告会社らは、阪本紡績に対する自分らの更生債権を保全するため、阪本紡績及び榊原正毅の会社更生法一五一条に基づく訴権を代位行使し、もしくは原告会社らの固有の権利に基づき 被告らに対し、更生担保権及び更生債権の不存在の確定を求める。

三、本件請求の原因事実に対する被告らの答弁及び主張

(答弁)

(一) 請求の原因事実(一)の事実は否認する。

(二)同(二)の事実は争う。

(主張)

仮に原告会社らの本件異議権の行使が許されるとしても、被告トーメンは常陸紡績に対し、前記調査期日に届け出た金八六億二、〇〇〇万円以上の更生担保権を有する。

第三  当事者の法律上の主張

一、原告会社ら

(一)  被告高沢嘉昭の被告適格について

(1) 会社更生法九六条によると、会社の財産関係の訴については、管財人が原告または被告となる。原告会社らの本件訴は、会社の財産関係に関する。したがつて、被告高沢嘉昭は当然被告適格を有する。

(2) 同被告は、法律関係の職務を分掌する管財人である。本件は法律問題である。同被告は法律関係についての唯一人の責任者として、多数利害関係人の納得できる行為をする職責がある。その職務の性質上、同被告は当然被告適格を有する。

(二)  異議権の代位行使について

(1) 原告会社らは、次の理由により、阪本紡績及び榊原正毅に代位して被告トーメンの届出更生担保権に対し、異議を述べることができる。

(イ) 会社更生法には、民法四二三条の適用を排除したり、変更した規定がない。債権者代位権の行使を認めても、行使の相手方を除き、何人にも損害を与えないし、与える危険性もない。債権者が一切の費用と手数を負担するし、利害関係人全体の利益となる。

(ロ) 会社更生法五三条は、会社の事業経営並びに財産の管理及び処分をする権利は管財人に専属すると規定する。しかし、この規定は更生会社の取締役から会社財産の管理処分権を奪うことに眼目があり、その権限が管財人に法律上専属することをあらわしていない。管財人の財産管理処分権には弾力性がある。管財人が作為義務に違反している場合にまで、債権者の介入を許さない趣旨ではない。特に更生手続における異議は、時期を失つすると回復の方法がない。したがつて、管財人の有する異議権は、法律上必然的に債権者の代位行使を妨げる性質のものではない。

(ハ) 管財人は万能ではない。したがつて、能力の不足、あるいは懈怠によつて利害関係人に損害を与えることがある。このような場合に、管財人に対する事後的な損害賠償請求を認める(会社更生法九八条の四)よりも、利害関係人に介入させて損害の発生を予防する方法がとられるべきである。

(ニ) 管財人が異議を述べたくても、更正計画を成立させるために大口利害関係人に遠慮し、あえて異議を述べないことがある。本件の場合も、被告トーメンは阪本紡績の大口債権者である。したがつて榊原正毅はあえて異議を述べることをさしひかえた。

(ホ) 管財人の義務懈怠を理由に裁判所に解任権の発動を促すこともできる(会社更生法九八条の五)が、妥当な方法とはいえない。

結局、利害関係人の熱意を活用するのが最善の策である。したがつて債権者の異議権の代位行使を認めるべきである。

(2) 仮に異議権の代位行使が許されないとしても、原告会社らは次に述べる理由により、固有の権利として異議権を行使することができる。

(イ) 常陸紡績は、阪本紡績の完全な子会社であり、その一製造部門である。阪本紡績は常陸紡績に対し約金一九億円の債権を有し、その株式の九五パーセントを有している。両会社は完全な運命共同体である。したがつて、両会社を一体の事業とみて、更生計画をたてる必要がある。

(ロ) 阪本紡績の更生債権者にとつては、常陸紡績の財産の得喪、債務の認否が、阪本紡績のそれと同等の経済的効果をもたらす。したがつて、阪本紡績の更生債権者は、常陸紡績の更生手続に重大な利害関係を有する。

以上のような両会社の関係から、阪本紡績の更生債権者である原告会社らは、常陸紡績の更生手続において、代位の手続を経なくても、直接異議を述べる権利があるというべきである。

(3) 管財人以外の者でも、否認されるべき行為であること、もしくは詐害行為として取り消されるべきことを異議の理由にすることができる。

(イ) 被告らは 否認権を異議の理由にすることは、管財人の専権にゆだねられている否認権を、更生債権者らが異議に藉口して侵害することになり、会社更生法五三条、八二条一項により許されないと主張する。しかし、否認権を管財人の専権とし、更生債権者らが異議の理由にすることを妨げる合理的根拠はない。あらゆる事情を総合判断しなければならない否認権の行使、不行使を管財人一人の判断にゆだねてしまうことは危険である。管財人の否認権の不行使に対して、まつたく救済方法を認めないとするのは、利害関係人間にきわめて不公平な結果をもたらす。更生債権者らの異議権を広く認めても、訴によらねばならないから、相手方にとつて特に不利益ではない。したがつて管財人以外の者でも否認権を異議の理由にできると解すべきである。

(ロ) 被告らは、会社更生手続開始後は、債権者は詐害行為取消訴訟を提起することはもちろん、それを、異議の理由にもできないと主張する。しかし、会社更生法九三条は、管財人に訴訟受継の機会を与える趣旨にとどまり、債権者が詐害行為取消訴訟を提起できなくなる趣旨の規定ではない。同法六九条の文言を反対解釈すると、更生債権または更生担保権に関する訴訟は、受継よりも、異議とそれに続く異議訴訟で解決させるのが同法の趣旨である。したがつて、中断した詐害行為取消訴訟が更生担保権または更生債権に関するときは、管財人及び債権者らは、調査期日に詐害行為であることを理由に異議を述べ、異議訴訟により解決すべきである。

二、被告ら

(一)  被告高沢嘉昭の主張

本件訴は、会社更生法一五一条に基づく訴訟である。同条に基づく確定訴訟では、異議を述べられた更生債権または更生担保権の届出人のみが被告適格を有し、管財人は被告適格を有しない。

したがつて被告高沢嘉昭に対する訴は、被告適格欠く者に対する不適法な訴であるから却下されるべきである。

(二)  被告らの主張

(1) 異議権は債権者代位の対象にならない。特に阪本紡績の更生管財人榊原正毅の異議権を阪本紡績の更生債権者である原告会社らが代位行使することはできない。すなわち、阪本紡績の経営並びに財産の管理処分権はすべて管財人に専属する。管財人は、阪本紡績の代表者ないし代理人ではなく、更生債権者ら総利害関係人のために、高度の裁量権限をもつて前記職務を行なう地位にある。本件において債権者代位権の行使を許すと、利害関係人が債権者代位権に藉口して、管財人の権限に介入することを許すことになる。会社更生法は、管財人の権限に対する利害関係人のこのような介入をまつたく予定していない。

(2) 管財人以外の者は、否認されるべき行為であることを更生債権及び更生担保権に対する異議の理由にできない。

原告会社らの主張は 会社更生法八二条一項の「否認権は、訴、否認の請求又は抗弁によつて、管財人が行う。」との明文の規定に反する。右規定は、前記のような地位にある管財人に対し、総利害関係人のために否認権を専属的に付与する趣旨である。

(3) 詐害行為取消権は、更生手続開始後は否認権に転換され、管財人が専ら、否認権として行使する。したがつて、債権者は、もはや詐害行為取消訴訟を提起できず、詐害行為を異議の理由にすることもできない。原告会社らは、会社更生法六九条の反対解釈から更生債権者らが詐害行為取消権を異議の理由にできると主張する。しかし、同法九三条が、詐害行為取消訴訟について特に手続の中断を規定するとともに、同法六九条を準用していることを考えると、係属中の詐害行為取消訴訟は、管財人が受継し、否認訴訟に転換して、その続行を認める趣旨である。

理由

一被告高沢嘉昭に対する訴についての判断

(一)  更生管財人、更生債権者、更生担保権者及び株主が、更生債権及び更生担保権の調査期日で、更生債権又は更生担保権に対して異議を述べた場合、異議を述べられた権利者は、管財人など異議を述べた者を相手どつて自分の権利の確定を求める訴を提起しなければならない(会社更生法一四七条)。これに対し、管財人には異議がなく、更生債権者、更生担保権者又は株主だけに異議がある場合には、それらの者が異議の対象となつた権利の不存在確定訴訟を提起しなければならない(同法一五一条)。

(二)  ところで、同法一五一条は、明文をもつて後者の訴の被告適格を規定していないが、次の理由によつて、管財人に被告適格はないとするのが相当である。

(1)  同法一四七条は、明文をもつて「異議者に対し」て提訴することを規定しているが、同法一五一条の規定は、同法一四七条とは、その規定の体裁と趣旨からして全く同一の規定と解される。したがつて、同法一五一条の訴の被告適格者は、異議の対象となつた更生債権又は更生担保権の権利者であつて 異議を述べなかつた管財人は無関係である。

(2)  同法一四七条は勿論のこと同法一五一条の規定の趣旨は、無責任な異議権の行使を抑制し、異議のある権利については、相争う当事者の熱意と裁判所の監督的機能によつて争いのある権利の確定を計ろうとすることにある。そうすると、管財人が異議を述べていない権利に関する訴である同法一五一条の訴にまで、管財人を被告にすることを法は予定していないといえる。

(3)  更生債権又は更生担保権の確定に関する訴訟の結果は、更生債権者表又は更生担保権者表に記載され(同法一五三条)、この訴訟の判決は、更生債権者、更生担保権者及び株主の全員に対し効力がある(同法一五四条)。このように 更生債権者表又は更生担保権者表に記載された以上、管財人は判決の効力を受け、この記載に従つて以後更生手続を進めなければならないのであるから、同法一五一条の訴の被告として管財人を加える必要は全くない。

(4)  原告会社らは、同法九六条や管財人の職務内容等から、被告高沢嘉昭は当然、本件訴の被告適格があると主張している。

同法九六条は、更生手続開始決定後は管財人が会社財産の管理処分を専有することの一環として、単に更生会社の財産関係の訴訟について管財人が当事者適格を有することとして管財人と取締役との権限を分配する趣旨の規定であると解するのが相当である。したがつて、管財人が、具体的な訴訟で、原告又は被告になるかどうかは、同法上の他の規定をまたなければならない。

そうすると、同法九六条から直ちに同法一五一条の訴について管財人が被告適格を有するとすることはできない。また、被告高沢嘉昭が法律関係を分筆する管財人であることだけから直ちに同条の訴の被告適格があるとするわけにはいかない。

(三)  本件訴が同法一五一条の訴であることは明らかであるから 原告会社らの被告高沢嘉昭に対する訴は、被告適格のない常陸紡績の管財人を相手どつた不適法な訴として却下を免れない。

そうすると、同被告の本案前の主張は理由があることに帰着する。

二被告トーメンに対する訴についての判断

(一)  原告会社らの被告トーメンに対する訴は、原告会社らが阪本紡績の更生債権者として、阪本紡績及びその管財人榊原正毅に代位し、もしくは固有の権利に基づいて、常陸紡績の更生債権及び更生担保権調査期日に、被告トーメンの届出債権に異議を述べたことを前提とする。そこで、このような異議権の行使が許されるかどうかについて検討する。

(二)  阪本紡績に対する代位について

更生会社は更生手続開始決定があると、経営権並びに財産の管理処分を失い、これらの権限は管財人に専属する(同法五三条)から、阪本紡績が常陸紡績の株主として有していた権限は阪本紡績の管財人が専有することになる。したがつて、阪本紡績は、もはや代位される権利の帰属者ではないから、原告会社らが阪本紡績に代位して同期日に異議を述べても、債務者に対する代位権の行使となる余地はない。

そればかりか、後に説示するとおり、異議権の代位行使は法律上認められないから、原告会社らが阪本紡績に代位して述べた異議は会社更生法上無効である。

(三)  管財人榊原正毅に対する代位について

(1) 管財人が更生債権及び更生担保権調査期日で行使すべき異議権を、更生会社の更生債権者が債権代位権により、代位行使することは許されないと解するのが相当である。以下その理由を詳述する。

(イ) 管財人は、会社更生法上、裁判所の監督に服するほかは更生会社の事業の経営並びに財産の管理処分についての専権を有する(同法五三条)。

ところで、企業解体を前提に債権者に平等な配当を与えることを目的とする破産法と異なり、会社更生法は、更生会社の再建を至上目的としている(同法一条)から、この再建目的達成のために管財人に与えられた右専権の行使にはきわめて広汎な裁量権が伴い、その判断が尊重されるのである。したがつて、否認原因がある場合でも、管財人は、必ずしも常に否認権を行使しなければならないわけではなく、更生計画案を樹立すべき要請などを考慮して、適正、妥当にこれを行使すれば足りる。

(ロ) 他方、会社更生法は、このような管財人の職責、権限を考慮する一方、他の利害関係人(更生債権者、更生担保権者、株主)の利益を保障するために、固有の立場で異議を述べる権利を利害関係人に認めている(同法一四三条)。この固有の異議権の行使は、これら利害関係人の利益を保護するとともに、管財人の権限行使に対する監督的機能を果している。

(ハ) ところで、このような地位にある管財人の異議権の債権者代位を許容すると、管財人と利害関係人とにだけ固有の異議権を認める会社更生法の建前がくずれ、原告会社らのような間接的な利害関係人が債権者代位権に藉口して、自らは直接の参加資格がない更生手続に参加することを可能ならしめる結果になる。その結果、利害関係人の範囲が無限に広がり、更生計画の迅速な樹立という会社更生法制定の趣旨が没却されるおそれがある。このことは、更生手続の性格上異議権が債権者代位にしたしまない証左である。つまり、原告会社らの利益は、阪本紡績の更生手続内で、前述のように固有の異議権という形で保護されており、かつ、それにつきるわけで、更生手続一般の確実性の要求という点からしても、それ以上に債権者代位の方法で常陸紡績の更生手続に参加さす必要も理由もないのである。

(ニ) 会社更生法上、異議権の行使とは、更生債権及び更生担保権調査期日に積極的に異議を述べた場合に限らず、消極的に異議を述べなかつた場合をも含むと解するのが相当である。そうすると、榊原正毅は常陸紡績の右期日に消極的な方法で異議権を行使したことになるから、原告会社らが債権者代位権を行使する余地はなかつたというほかはない。榊原正毅は、阪本紡績の管財人の資格で常陸紡績の同期日に出席し、前述した管財人としての権限と判断に基づいて異議権を行使しなかつたのである。もしこのような場合に原告会社らの異議権の代位行使を許容すると、管財人としての専権が侵奪され、その職務執行は不可能に陥る。このことからも、更生手続の性格上異議権が債権者代位にしたしまない証左である。

(ホ) 管財人の職務執行について、会社更生法は、損害賠償の規定(九八条の四)、解任の規定(九八条の五)を設けている。原告会社らは、これらの規定では自分らの阪本紡績に対する債権の保全には不十分であると主張している。しかし、原告らはこれらの規定で満足すべきであり、管財人の専権を侵奪しての地位を無にするに等しい異議権の債権者代位を、更生手続上認めるわけにはいかない。

(2)  以上の次第で、原告会社らには、榊原正毅の異議権の代位行使が許されないとしなければならない。

(四)  原告会社らの固有の異議権について

原告会社らは、阪本紡績と常陸紡績とは、実質上同一の会社であるから、本件においては常陸紡績の直接の更生債権者として異議を述べる権利があると主張している。

しかし、両更生会社は、別々に更生手続開始決定を受け、管財人も別個であり、法律上完全に別個独立の会社である。したがつて、原告会社らが主張するような事情があるとしても、原告会社らが常陸紡績の直接の更生債権者になるわけないから、更生債権者として異議を述べる余地はない。

(五)  否認権及び詐害行為取消権の主張について

原告会社らは、管財人以外の利害関係人も、更生債権及び更生担保権が否認されるべきこと、もしくは詐害行為として取り消されるべきことを異議の理由にできると主張している。

しかし、既に述べたように、原告会社らは、阪本紡績及びその管財人榊原正毅に代位して異議を述べることはもちろん、固有の権利として異議を述べることもできないのであるから、異議の理由について判断をする必要はない。つまり、異議の理由がどうあれ、異議そのものがいえないのである。

(六)  以上述べたようなわけで、常陸紡績の管財人、更生債権者、更生担保権者もしくは株主でなければ、常陸紡績の更生手続において、更生担保権等の権利に対して異議を述べたり、そのことを前提として、その不存在の確定を求めて出訴することができないことは明白である。ところで、原告会社らは、常陸紡績の管財人、更生債権者、更生担保権者、株主のいずれでもないから、常陸紡績の更生債権等調査期日において、被告トーメンの更生担保権等に対して異議を述べる資格がなかつたことに帰着し、述べられた異議は会社更生法上無効である。したがつて、原告会社らは、被告トーメンに対し右更生担保権等の不存在の確定を求める本件訴を提起する原告適格を欠くとしなければならない。

三結論

以上の次第で、原告会社らの本件訴は、いずれも不適法であるから却下し、民訴法八九条、九三条に従い主文のとおり判決する。

(古崎慶長 下村浩蔵 播磨政明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例